「脂質は太るイメージがあるけど、脂質制限したほうが痩せる?」
「脂質は大切って聞いたこともあるけど、どんな種類の脂質がダイエットに効果的?」
「良い脂質がとれる『おすすめ食材』や『脂質の1日の摂取量』が知りたい」
「脂質はカロリーが高いので、減らすべき」と一昔前は考えられていました。
しかし近年では、脂質には「良質な脂質」と「悪い脂質」があって、「良質な脂質」はダイエットに不可欠であることがわかっています。
栄養学の世界的権威であるハーバード大学公衆衛生大学院のウォルター・ウィレット教授は、『脂質は肥満の主要原因か?いや、そうではない』と題する論文で、次のように述べています。
西洋諸国で太りすぎの人が多いのは、脂質の多い食事が原因ではない。総摂取カロリーから、脂質の割合を減らしても、何もよいことはなく、むしろ肥満問題が加速するだけだ。肥満や健康のために、脂質を減らすことは、無駄な努力である。
たしかに、脂質制限ダイエットでも、短期的には体重は減ります。ですが、長い目でみれば、脂質制限ダイエットは効果的といえず、デメリットが多いです。
実際、筆者がダイエットの相談を受けたなかで、「脂質制限で一時的に体重が減ったが、ある時点で体重が落ちなくなった。リバウンドしてしまった。」という方は多いです。
この記事では、現役トレーナーである筆者が「ダイエットのための脂質の正しいとり方」について、詳しく解説しました。脂質を「何から」「どれだけ」とればいいのか、「なぜ」必要なのか、を理解していただけます。
脂質を正しくとる大きなメリットは、食事の満足感が上がり、お腹が空きにくくなる、ダイエットが楽になる、ということです。
ぜひ、脂質への理解を深めて、ダイエット成功に役立ててもらえるとうれしいです。
せいじ
NSCA認定パーソナルトレーナー(国際資格)/ダイエットまっぷ運営・執筆者/オンラインダイエット指導 BeShape 代表/健康運動実践指導者/学生時代にスポーツ医科学を専攻し、有名実業団チームのトレーナーとして経験を積む。その後、留学などを経て独立/大阪生まれの30代/趣味は読書と旅行
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脂質とは?
脂質とは、肉類、調理用油、乳製品、魚、ナッツ類、お菓子類など、さまざま食品に含まれる栄養素です。
炭水化物・たんぱく質と並んで、カラダのエネルギー源になります。(参考:厚生労働省 e-ヘルスネット 脂質)
また、カラダをつくる成分でもあります。カラダは次の4つの成分でできており、水分を除けば、大部分は脂質です。(参考:Encyclopedia.com, Composition Of The Body)
- 水分:約60%
- 脂質:約18%(脳、ホルモン、内蔵、体脂肪など)
- たんぱく質:約15%(筋肉、内蔵、脳、骨、ホルモン、抗体など)
- ミネラル:約7%(骨など)
なかでも、「脳は約60%は脂質」でできています。(参考:Essential Fatty Acids and Human Brain)
また、ヒトのカラダは約47兆個の細胞が集まってできていますが、その細胞膜の主成分は脂質です。
さらに、脂質には脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収を助ける働きがあります。脂質が不足すると、これらビタミンが欠乏することがあります。
脂質はとくにダイエットでは悪者にされがちですが、このように脂質はカラダに不可欠な栄養素です。
ダイエットに脂質は必要
脂質は太るというイメージがありますが、それは正しくありません。
じつは、「低脂質ダイエットは体重減少に有効ではない」ことが研究によって実証されています。
たとえば、次のような有名な研究があります。
2015年ハーバード大学による研究では、低脂質ダイエットの効果について、「信頼性の高い53本の論文」をまとめて分析しました。それぞれの研究期間は1年以上のもので、対象人数は合計で68,128名になりました。
結果は次のとおりでした。
- 低炭水化物ダイエットと低脂質ダイエットを比較した18個の研究では、低炭水化物(糖質)ダイエットの方が1年で平均1.15kg高い体重減少の効果が確認された
- 19個の研究では、「低脂質ダイエット」と「他の中程度以上の脂質をとるダイエット」を比べて、体重減少に違いは確認されなかった
- ただし、8個の研究では、通常の食生活と比較すると、低脂質ダイエットは5.4kg減量することが確認された(*どのようなダイエットでも、総摂取カロリーが減れば、短期的には体重が減る)
研究者たちは、「低脂質ダイエットは、他のダイエットと比べて、長期的に体重減少に有効とは言えない」と結論づけています。
この研究は、規模が大きく、低脂質ダイエットでは決定的な論文とされています。
また、次のような研究もあります。
2008年に世界5大医学雑誌の1つ『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に掲載された研究で、322名の中程度肥満の方を対象に、2年間にわたって調べてました。
対象は次の3つの食事グループにわけられました。
- 低脂質食(カロリー制限あり)
- 地中海食(カロリー制限あり):野菜、生の赤身肉、鶏肉、魚、オリーブオイル、ナッツなど
- 低炭水化物食(カロリー制限なし)
結果は、低炭水化物食(糖質)が平均−4.7kgでもっとも高いダイエット効果でした。しかも、カロリー制限なしにもかかわらずです。
次いで、地中海食が平均−4.4kgです。(地中海食では脂質をしっかりとります)
一方で、低脂質食(カロリー制限あり)は平均−2.9kgでもっとも低いダイエット効果でした。
(根拠論文:Weight Loss with a Low-Carbohydrate, Mediterranean, or Low-Fat Diet)
このように、低脂質ダイエットは、他と比べて効果が低いです。また、注目すべきは脂質をしっかりとる地中海食で、しっかりと体重が落ちていることです。
それではなぜ、低脂質ダイエットはあまり効果的ではないのでしょうか?
理由には、次の2つがあります。
- 脂質を減らすと炭水化物(糖質)の摂取量が増えやすくなる
- 脂質を減らすと食欲が満たされにくくなる
それぞれ解説していきます。
脂質を減らすと炭水化物(糖質)の摂取量が増えやすくなる
低脂質のデメリットの1つは、「脂質を減らした分、炭水化物(糖質)の摂取量が増えやすくなる」ことです。
炭水化物(糖質)は食べすぎると、血糖値を急激にあげて、太りやすくなります。
糖質で太るメカニズム
糖質のとりすぎ → 血糖値が急に上がる → 血糖(ブドウ糖)をカラダに取り込むためにインスリンが分泌 → 血糖値が下がる → 余った血糖(ブドウ糖)は体脂肪になる
(参考:厚生労働省 e-ヘルスネット インスリン)
また、血糖値の急激に上がったあと、こんどは急激に下がるので、空腹になりやすく、よけいな摂取カロリーが増えてしまいます。
糖質でお腹が空くメカニズム
糖質のとりすぎ → 血糖値が急に上がる → 血糖値が急に下がる → カラダはエネルギー不足と感じる → 空腹になる → 摂取カロリーが増える
とくに砂糖や白い炭水化物などの「加工された炭水化物(糖質)」は、体内ですぐに消化吸収されるので、血糖値を上げやすく、太りやすいです。
実際に、次のような実証研究があります。
2011年ハーバード大学などによる研究では、「ライフスタイルと体重増加」について、120,877名の米国人を対象に、10〜20年を追いかけて調べました。結果は次のとおりです。
- 「砂糖の多いジュース、精製された穀物(白い炭水化物)、ポテトチップス、じゃがいも」を日常的に食べることは、体重増加と強い関係がみられた
- 一方で、「野菜、茶色い炭水化物、果物、ナッツ、ヨーグルト」を日常的に食べることは、体重減少と関係がみられた
(根拠論文:Changes in diet and lifestyle and long-term weight gain in women and men)
一方で、脂質は血糖値をほとんど上げません。
さらにいえば、脂質は、炭水化物(糖質)と一緒にとることで、血糖値の上昇をおさえてくれることがわかっています。
1992年ヨーロッパの医学雑誌『European Journal of Clinical Nutrition』に掲載された研究では、「糖質と一緒にオリーブオイルやコーンオイル、バターを食べると、血糖値の上昇が抑えられる」ことが報告されています。
以上のように、低脂質にすると、炭水化物(糖質)を食べる量が増えてしまい、血糖値が上がりやすく、そして太りやすくなってしまいます。
脂質を減らすと食欲が満たされない
脂質は、お腹のなかでゆっくりと時間をかけて消化吸収されるため、食欲を満たし、空腹感をおさえる働きがあります。(参考:Specific food structures supress appetite through reduced gastric emptying rate)
しかし、低脂質にすると、食欲が満たされません。お腹が空いて、摂取カロリーが増えやすくなります。
そのうえ、さきほどご説明したとおり、炭水化物(糖質)の摂取量が増えれば、血糖値が上下することで、よりいっそうお腹が空きやすくなります。
逆にいえば、脂質を正しくとれば、空腹になりにくいので、余計なカロリー摂取が減ります。また、お腹が空きにくいので、ダイエットがラクになります。
ダイエットにおける「良質な脂質」と「悪い脂質」
ここまで見てきたように、ダイエットに脂質は必要です。ですが、どんな脂質でも良いわけではありません。
脂質には「良質な脂質」と「悪い脂質」があって、「良質な脂質」をとることがダイエットでは大切です。
脂質は、次のように5種類に分けられます。
飽和脂肪酸 | 主に動物の油 | ||
不飽和脂肪酸 | 一価不飽和脂肪酸 | オメガ9系脂肪酸 | 主に植物の油 |
多価不飽和脂肪酸 | オメガ6系脂肪酸 | 主に植物の油 | |
オメガ3系脂肪酸 | 主に魚の油 | ||
トランス脂肪酸 | 人工の油 |
まず大まかにいえば、ダイエットでとるべき脂質は「不飽和脂肪酸」です。魚や植物の油です。
一方で、「飽和脂肪酸」と「トランス脂肪酸」は太りやすい油です。動物の油や、人工の油です。
脂質の種類とダイエットの関係については、次のような実証研究があります。
2007年ハーバード大学による研究では、「脂質と体重増加」について、41,518名の女性(41~68歳)を8年間にわたって調べました。
結果は次のとおりでした。
- 総合的な結果では、脂質の摂取を増やすことと体重増加には、ゆるやかな関係が確認された
- ただし、脂質の種類別にみれば、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸では、体重増加と関係が見られなかった
- 一方で、動物の油・飽和脂肪酸・トランス脂肪酸では、体重増加と強い関係が見られた
(根拠論文:Dietary fat and weight gain among women in the Nurses’ Health Study)
このように、不飽和脂肪酸は太らない油です。
さらに詳しくご説明すると、不飽和脂肪酸はさらに3種類にわけられます。
そして、結論からいえば、次のように脂質をとるのがダイエットに効果的です。
- 不飽和脂肪酸:オメガ3系脂肪酸 → 積極的にとる
- 不飽和脂肪酸:オメガ9系脂肪酸 → 適切にとる
- 不飽和脂肪酸:オメガ6系脂肪酸 → 控えめに
- 飽和脂肪酸 → 控えめに
- トランス脂肪酸 → できるだけ避ける
それぞれ解説していきます。
多価不飽和脂肪酸:オメガ3系脂肪酸は積極的にとる
オメガ3系脂肪酸は、次のような食品に含まれます。
- 青魚(サバ、イワシ、サーモンなど)
- くるみ
- えごま油
- 亜麻仁油 など
多価不飽和脂肪酸であるオメガ3系脂肪酸は「必須脂肪酸」と呼ばれ、体内でつくることができず、必ず食事からとらなければいけません。
オメガ3系脂肪酸には、幅広い健康メリットがあります。なかでも、心疾患の予防・改善への効果があるとされています。(根拠論文:Omega-3 fatty acids: a growing ocean of choices)
詳しくは次のとおりです。
上記のような効果は、メタボの改善につながります。(メタボは肥満と強い関係性があります)(根拠論文)
また、睡眠不足と肥満には高い関係性があるのですが(根拠論文)、オメガ3系脂肪酸には、睡眠の質を良くするという研究報告があります。(根拠論文1、根拠論文2)
さらに、まだ決定的とは言えませんが、オメガ3系脂肪酸はメンタルヘルスへの効果があるという研究結果も積み上がっています。(根拠論文)
このように、オメガ3系脂肪酸にはたくさんのメリットがあります。ダイエットだけでなく健康のためにも、積極的にとるべき脂質です。
なお、上記のようなメリットが得られるのは、オメガ3系脂肪酸のなかでも、「EPA(エイコサペンタエン酸)」と「DHA(ドコサヘキサエン酸)」というものです。
一方で、えごま油や亜麻仁油に含まれるオメガ3系脂肪酸は「ALA(αリノレン酸)」というものです。ALAは、体内でEPAとDHAに変換されるのですが、その変換率はあまり高くないことがわかっています。(根拠論文:Can adults adequately convert alpha-linolenic acid (18:3n-3) to eicosapentaenoic acid (20:5n-3) and docosahexaenoic acid (22:6n-3)?)
なので、オメガ3系脂肪酸は、EPAとDHAが効率的にとれる「青魚」からとるのがおすすめです。何らかの理由で青魚が食べれないのであれば、えごま油や亜麻仁油を検討するとよいでしょう。
一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸)は適切にとる
オメガ9系脂肪酸は、次のような食品に含まれます。
- オリーブオイル
- アーモンド
- アボカド
- 紅花紬/サンフラワー油
- 菜種油/キャノーラ油
- 落花生油 など
一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸)は、体内でつくることができるので、必須脂肪酸ではありません。とはいえ、ダイエットに効果的なので、積極的にとるべき脂質です。
たとえば、次のような実証研究があります。
(一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸)では「オレイン酸」が代表です)
2020年の研究では、「オレイン酸と肥満」について、821本の論文(最近の28件の臨床研究を含む)をまとめて分析しました。
結果では、「オレイン酸を豊富に含む食品には、腹部の脂肪(内臓脂肪)を減らして、体脂肪量や体重を減らす効果がある」ことが確認されています。
また健康面では、コレステロール値を下げて、心血管疾患のリスクを下げることが研究からわかっています。また、カラダの細胞の生成を助けたり、抗酸化作用の高いビタミンEの吸収を助けてくれます。(参考:American Heart Association, Monounsaturated Fat)
このように一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸)は適切にとるべき脂質です。
多価不飽和脂肪酸:オメガ6系脂肪酸は控えめに
オメガ6系脂肪酸は、次のような食品に含まれます。食用のサラダ油に多いです。
- 菜種油/キャノーラ油(日本の食用油に多い)
- 大豆油(日本の食用油に多い)
- 紅花油/サフラワー油(炒めもの、揚げ物など)
- ひまわり油(ショートニングなど)
- コーン油(揚げ物など)
- 綿実油(マーガリン、マヨネーズなど)
- グレープシードオイル など
オメガ6系脂肪酸は、注意が必要な脂質です。まず、不飽和脂肪酸なので基本的にはヘルシーな油です。また、体内では作れない「必須脂肪酸」でもあります。
しかし、オメガ6系脂肪酸のとりすぎは、カラダの炎症を増やし、肥満や心血管疾患などの健康リスクを上げることがわかっています。とくに、オメガ3系脂肪酸との比率が大切で、理想は「オメガ6:オメガ3=1:1~4:1ぐらい」とされています。(根拠論点:Health implications of high dietary omega-6 polyunsaturated Fatty acids)
人類学や疫学、分子レベルの研究では、人類(ヒト)は「オメガ6:オメガ3=1:1」の食生活で進化してきたことが示されています。(根拠論文:Evolutionary aspects of diet, the omega-6/omega-3 ratio and genetic variation: nutritional implications for chronic diseases)
この比率が、ヒトのカラダにとっては自然ということです。
しかし、現代の日本人ではその比率が10:1になっているという報告があります。(参考:NHK 健康には必須脂肪酸「オメガ3」「オメガ6」が重要!油選びのコツ)
このように、オメガ6系脂肪酸はすでに取りすぎているので、意識して控えめにすることが大切です。「オメガ6:オメガ3=1:1」を目指すのが理想です。
オメガ6系脂肪酸は、一般的な食用油に多く含まれるので、加熱調理用にはなるべくオリーブオイルを使うとよいでしょう。(加熱するときはエキストラバージンではないもの使う。そのほうが、油が酸化しにくい。)
なお、食用油については、メタボとの関係性が確認されています。
2018年タスマニア大学による研究では、2071名のオーストラリア人(26~36歳)を調べたところ、「キャノーラ油、サンフラワー油を日常的にとることは、メタボリックシンドロームと関連がある」ことが確認されています。
飽和脂肪酸は控えめに
飽和脂肪酸は、次のような食品に含まれます。主に動物の油に多いです。
- 動物の肉
- バター
- ギー
- ラード
- 乳製品
- パームオイル
- ココナッツオイル など
ダイエットや健康のためには、飽和脂肪酸は控えめにするのが望ましいです。
飽和脂肪酸を減らすことのメリットについては、次のような研究論文があります。
2020年ノーウィッチメディカルスクール(英国)の研究者たちにる研究では、「飽和脂肪酸を減らすこと」と「心血管疾患」について、「信頼性が高い15本の論文」をまとめて分析しました。対象者は合計約59,000名と大規模です。
結果は、ダイエットについて、体重とBMIが少し減少したことが確認されました。
健康については、研究者は「飽和脂肪酸を少なくとも2年以上減らすことは、心血管に問題が起こるのを有意に減らす可能性がある。飽和脂肪酸を『多価不飽和脂肪酸か炭水化物』に置き換えることは有効な戦略といえる。」と結論づけています。
(根拠論文:Reduction in saturated fat intake for cardiovascular disease)
このように、飽和脂肪酸を減らせば、痩せやすく、健康的になります。
ただし近年では、飽和脂肪酸は「これまで考えられていたよりも悪くはないのではないか?」という見方も出てきています。
ハーバード大学は、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸を「良い脂質」、トランス脂肪酸を「悪い脂質」としたうえで、飽和脂肪酸は「この2つの間のどこかに位置する」と述べています。(参考:The truth about fats: the good, the bad, and the in-between)
飽和脂肪酸は、動物肉やバター、乳製品に含まれるので、日常生活で完全に避けることは難しいです。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、摂取カロリーに対して、飽和脂肪酸は7%以下にすることが推奨されています。この数値を守りながら、適度に食べるのが現実的でしょう。(参考:厚生労働省 日本人の食事摂取基準)
トランス脂肪酸はできるだけ避ける
トランス脂肪酸とは、簡単にいえば「加工された油」のことです。たとえば、植物や魚の油は常温だと液体ですが、これを常温でも個体になるように加工すると、トランス脂肪酸はできます。
トランス脂肪酸は次のような食品に含まれています。とくにお菓子などの加工食品です。
- マーガリン
- ショートニング
- 菓子パン
- ビスケット
- ケーキ
- 揚げ物
- ファーストフード
トランス脂肪酸は、ダイエットや健康のために、できるだけ少なくするのが望ましいです。
トランス脂肪酸は健康への悪影響が大きいため、WHOは「トランス脂肪酸を総エネルギー摂取量の1%未満におさえるべき」と提示しています。(参考:農林水産省 トランス脂肪酸に関する国際機関の取組)
さらに厚生労働省は「総エネルギー摂取量の1%より少ない場合でも、さらに少なくすることが望ましい」としています。(参考:厚生労働省 日本人の食事摂取基準、参考:農林水産省 すぐにわかるトランス脂肪酸)
また、WHOは「2023年までに世界の食品供給からトランス脂肪酸を無くす」という活動を行っています。(参考:World Health Organization, REPLACE trans fat)
トランス脂肪酸は、それだけ「悪い油」ということです。
ダイエットに関していえば、トランス脂肪酸は「体重増加と肥満に関係がある」ことが多くの研究で実証されています。(根拠論文1、根拠論文2、根拠論点3)
トランス脂肪酸をとっても何も良いことはありません。できるだけ食べないようにしましょう。マーガリンやショートニングは、市販のパンやお菓子など、思わぬところに含まれているので注意が必要です。
- 不飽和脂肪酸:オメガ3系脂肪酸(主に青魚の油) → 積極的にとる
- 不飽和脂肪酸:オメガ9系脂肪酸(主に植物の油) → 適切にとる
- 不飽和脂肪酸:オメガ6系脂肪酸(主にサラダ油) → 控えめに
- 飽和脂肪酸(主に動物の油) → 控えめに
- トランス脂肪酸(人工の油) → できるだけ避ける
良質な脂質がとれるダイエットにおすすめの食材5選
ダイエットでとるべき脂質は、次の5つです。
- 青魚
- エキストラバージン・オリーブオイル
- ナッツ
- アボカド
- グラスフェッドバター
それぞれ解説していきます。
青魚
青魚には、不飽和脂肪酸:オメガ3系脂肪酸であるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富に含まれています。
すでにご説明のとおり、オメガ3系脂肪酸はダイエット・健康において、幅広いメリットがあります。
実際、「魚を食べる人は、そうでない人と比べて健康である」ことは複数の研究で実証されています。(根拠論文:n-3 Fatty acids from fish or fish-oil supplements, but not alpha-linolenic acid, benefit cardiovascular disease outcomes in primary- and secondary-prevention studies: a systematic review)
また、魚は、貴重なたんぱく源にもなります。たんぱく質はダイエットに不可欠です。
青魚は、1日1匹を食べるのを目標にしましょう。サバ、イワシ、サンマ、サーモンなどがあります。
とくに、サバ、イワシ、サンマなどの水煮缶や味噌煮缶は、オメガ3系脂肪酸(EPA、DHA)が豊富なのでおすすめです。100gあたり2g以上のオメガ3系脂肪酸が含まれており、厚生労働省が定める摂取量*をクリアできます。(*後ほど解説します)
エキストラバージン・オリーブオイル
エキストラバージン・オリーブオイルがおすすめの理由は、次のとおりです。
- 一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸:オレイン酸)が豊富
- オメガ6系脂肪酸(リノール酸)とオメガ3系脂肪酸(α-リノレン酸)も少し含まれる
- 抗酸化作用のあるビタミンE(トコフェノール)、ポリフェノール(オレオカンタール、オレウロペイン)、クロロフィルが含まれる
一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)がダイエットに効果的なのは、すでにご説明のとおりです。
1日大さじ0.5~1杯を目安にとるとよいでしょう。毎食ごとにサラダに小さじ1~2杯かけるなど、何回かに分けてとるのがおすすめです。
なお、加熱調理には「エキストラバージンではない」ふつうのオリーブオイルを使いましょう。加熱に強く、酸化しにくいです。
ナッツ
ナッツがおすすめの理由は、次のとおりです。
- 不飽和脂肪酸を多く含む
- アーモンド、カシューナッツ、マカダミアナッツは一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸:オレイン酸)を多く含む
- くるみはオメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸を4:1のバランスで含む
- ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富
このようにナッツ類は、不飽和脂肪酸をはじめ、さまざまな栄養素が含まれています。たんぱく源にもなります。
実際、「ナッツを習慣的に食べる人は、そうでない人と比べて健康的で、肥満になりにくい」ことが多くの研究で報告されています。(根拠論文:Long-term associations of nut consumption with body weight and obesity)
アーモンドやくるみがはいった、無塩の素焼きミックスナッツがおすすめです。毎日約30g(一握りぐらい)を目安に食べるとよいでしょう。
「ナッツのダイエット効果」については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
アボカド
アボカドは森のバターとよばれ、ギネスブックに「最も栄養価の高い果物」として登録されています。次のようなメリットがあります。
- 一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸:オレイン酸)が豊富
- 11種類のビタミン、11種類のミネラル、食物繊維を含む
- 抗酸化作用の高いビタミンEが豊富
一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)のダイエット効果は、すでにご説明のとおりです。
実際、2013年の17,567名の米国人を対象にした研究では、「アボカドを習慣的に食べる人は、そうでない人と比べて、体重や内臓脂肪が低い傾向にある」ことが確認されています。(根拠論文:Avocado consumption is associated with better diet quality and nutrient intake, and lower metabolic syndrome risk in US adults: results from the National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES) 2001-2008)
栄養価が高く、ダイエットに効果的なうえに、美味しいです。1日1/2個〜1個を目安に食べるとよいでしょう。
グラスフェッドバター
はじめに断っておきますと、バター自体は飽和脂肪酸なので、たくさん取ることは推奨されません。
ですが、普段の生活ではバターを食べることは多いと思います。なので、より質の高い選択肢として、グラスフェッドバターをご紹介します。
グラスフェッドバターとは、天然の牧草を食べて育った牛のミルクからつくられたバターのことです。「グラス(Grass)=牧草」「フェッド(Fed)=与えられて」という意味です。
2015年に、デイブ・アスプリー氏が著書『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』でグラスフェッドバターを紹介したことで、日本でも知名度があがりました。
グラスフェッドバターは、ふつうのバターと比べて、次のようなメリットがあります。
- 不飽和脂肪酸の割合が高い
- オメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸が2:1と最適のバランスで含まれている
- 脂溶性のビタミン(A、D、E、K)、ミネラル(カリウム、リン)が多い
- 共役リノール酸という脂肪酸が含まれている(脂肪燃焼効果があるとされている)
このように、メリットが多いので、ふつうのバターをよく使っている方は、グラスフェッドバターに置き換えることをおすすめします。
ただし繰り返しですが、バターは飽和脂肪酸なので、取りすぎには注意です。1日大さじ0.5杯ぐらいを目安にしましょう。
ダイエットのための脂質の1日摂取量
結論からいえば、厚生労働省による「日本人の食事摂取基準」で定められている脂質の目標量「総カロリーの20~30%」をとりましょう。
総摂取カロリーが、総消費カロリーを超えない限りは、目標量で脂質をとっても太りません。むしろ、この目標量を「良質な脂質」でとれば、ダイエットがしやすくなります。
詳しくは次のとおりです。(*目標量はカロリー比)(引用:厚生労働省 日本人の食事摂取基準)
男性 | ||||
年齢 | 脂質(目標量) | 飽和脂肪酸(目標量) | オメガ6系脂肪酸(目安量) | オメガ3系脂肪酸(目安量) |
1~2歳 |
20~30%以下 |
10%以下 | 4g | 0.7g |
3~5歳 | 6g | 1.1g | ||
6~7歳 | 8g | 1.5g | ||
8~9歳 | ||||
10~11歳 | 10g | 1.6g | ||
12~14歳 | 11g | 1.9g | ||
15~17歳 | 8%以下 | 13g | 2.1g | |
18~29歳 | 7%以下 | 11g | 2g | |
30~49歳 | 10g | |||
50~64歳 | 2.2g | |||
65~74歳 | 9g | |||
75歳以上 | 8g | 2.1g |
女性 | ||||
年齢 | 脂質(目標量) | 飽和脂肪酸(目標量) | オメガ6系脂肪酸(目安量) | オメガ3系脂肪酸(目安量) |
1~2歳 | 20~30%以下 | 10%以下 | 4g | 0.8g |
3~5歳 | 6g | 1g | ||
6~7歳 | 7g | 1.3g | ||
8~9歳 | ||||
10~11歳 | 8g | 1.6g | ||
12~14歳 | 9g | |||
15~17歳 | 8%以下 | |||
18~29歳 | 7%以下 | 8g | ||
30~49歳 | ||||
50~64歳 | 1.9g | |||
65~74歳 | 2g | |||
75歳以上 | 7g | 1.8g |
飽和脂肪酸は目標量、オメガ6系と3系脂肪酸は目安量も定められているので、このとおりにとりましょう。
仮に、1日の摂取カロリーを1,800kcalとして計算すると、次のとおりです。
計算:脂質の目標量
- 1,800kcal × 脂質の目標量 20~30% = 360~540kcal
- 脂質1g = 9kcal
- 360~540kcal ÷ 9kcal = 40~60g
脂質の目標量は1日40~60g(1食あたり13~20g)
計算:飽和脂肪酸の目標量
- 1,800kcal × 飽和脂肪酸の目標量 7% = 126kcal
- 129kcal ÷ 9kcal = 14g
飽和脂肪酸の目標量は1日14g以下
なお、一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸)には、定められた摂取量はありません。しかし、すでにご説明のとおり、ダイエットに効果的な脂質です。「脂質の目標量(カロリー比で20~30%)の範囲でしっかりとる」ようにしましょう。
トランス脂肪酸については、厚生労働省は「総エネルギー摂取量の1%より少ない場合でも、さらに少なくすることが望ましい」としています。なるべく取らないようにしましょう。
「1日の摂取カロリー(必要カロリー)」は、次の表から計算してみてください。(※あくまで推定値です)
あなたの「身体活動レベル」と「年齢」に当てはまる数値を確認したら、「目標体重」をかけ算します。
身体活動レベル
身体活動レベル | |
---|---|
Ⅰ(低い) | 生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合 |
Ⅱ(ふつう) | 座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、通勤・買い物での歩行、家事、軽いスポーツ、のいずれかを含む場合 |
Ⅲ(高い) | 移動や立位の多い仕事の従事者、あるいは、スポーツ等余暇における活発な運動習慣を持っている場合 |
体重1kgあたりの推定エネルギー必要量
男性/身体活動レベル | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ |
---|---|---|---|
18~29歳 | 35.5kcal | 41.5kcal | 47.4kcal |
30~49歳 | 33.7kcal | 39.3kcal | 44.9kcal |
50~64歳 | 32.7kcal | 38.2kcal | 43.6kcal |
65~74歳 | 31.3kcal | 36.7kcal | 42.1kcal |
75歳以上 | 30.1kcal | 35.5kcal | ー |
女性/身体活動レベル | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ |
---|---|---|---|
18~29歳 | 33.2kcal | 38.7kcal | 44.2kcal |
30~49歳 | 32.9kcal | 38.4kcal | 43.9kcal |
50~64歳 | 31.1kcal | 36.2kcal | 41.4kcal |
65~74歳 | 30.0kcal | 35.2kcal | 40.4kcal |
75歳以上 | 29.0kcal | 34.2kcal | ー |
たとえば、35歳の女性で、ほとんど運動はしない(身体活動レベルⅠ)、目標体重が55kgの方であれば、次のような計算になります。
- 体重1kgあたりの推定エネルギー必要量 32.9kcal × 目標体重 55kg = 1,810kcal
まとめ
ダイエットにおいて、脂質は悪者にされがちですが、やみくもに脂質制限をするべきではありません。そもそも、脂質はカラダに不可欠な栄養素です。
「悪い脂質」は減らしながら、「良質な脂質」を推奨される量できちんととりましょう。体重は落ちますし、なにより食事での満足度があがるので、ダイエットがラクになります。
また、脂質だけでなく、炭水化物(糖質)とたんぱく質もあわせて改善すると、ダイエットによりいっそう効果的です。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
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